執事ならこう書くね(ホラー)

 石が好きだと言うと、たいていは、美しい石が好きなのだと思われる。美しい石が嫌いなわけではない。石となればガラスから砂まで好きなのだから、美しい石が嫌いなはずがない。

 しかし、宝石を観に出かけるということは、まずない。たまに、化石を観に行くことはあるが、そう多くない。わざわざ観に行くのは、たいてい、わざわざ観に行くのに値しないような石だ。その中でも巨石や奇岩の類は、まだ、いい。まだ、観に行く価値が少しはある。

 ところが、筆者の場合、もっとも好きな石は道祖神なのだ。中でも文字だけの道祖神には特別な思い入れがある。

 ホラー雑誌をやっていた頃には、この道祖神のコーナーを作って読者から、その情報を求めていたぐらいなのだ。

 栃木には馬頭観音という文字の掘られた道祖神がある。あの九尾のキツネの石のあるところなのだから、あのあたりには、いい石がゴロゴロしていて当たり前のようにも思う。晴明石があるのも栃木だ。

 思い立ったら行かずにはいられなくなる。

 今回、観たくなったのは、蛇石と言われるものだ。

 さっそく向かう。この場所は間違いようのない場所。県道を鹿沼市目指して走る。このあたりにはファミレスもない。深夜となれば光さえ乏しいのは相変わらずだった。蛇石に出会う前に蛇に出会いそうで怖いが、相手はホラースポットのようなもの、危険は覚悟の上なのだ。

 さて、どこに車を停めるべきか。確か、近くに大きな駐車場があったと記憶していたが、それが私営か公営かの記憶がない。

 そのあたりにはファミレスのようなものがないので、今回ばかりは、目的地を前に目的を見失うようなこともない。

 そう思っていると、カーナビが目的地周辺を指示している。幸いなことに駐車場もある。

 到着したのは深夜二時を回っている。ところが、そんな場所の駐車場に車が数台停まっているのだ。犯罪の匂いがする。そうした匂いに敏感でないとホラー取材は出来なかった。ホラー取材でもっとも怖いの霊ではなく野犬と事件なのだ。

 車を駐車場に入れ、すぐに向きを変える。出口に前向きで出られるようにしておくのだ。バックで逃げるのは難しいからだ。エンジンを切らずにライトを切る。そのまま暗闇に目を慣らす。停まっている車の中や周辺に人のいないことを確認するのだ。人がいないと安心する。事件に巻き込まれるぐらいなら幽霊に出くわすほうがよほどいいからだ。

 人のいないのを確認したらエンジンを切る。まだ、外に出てはいけない。こちらがエンジンを切るのを待っているかもしれないからだ。

 筆者の長いホラー取材経験の勘が見事に的中した。こちらがエンジンを切ると、停まっていた数台の車のライトが付き、エンジンがかけられたのだ。一台、二台と、車が駐車場から出て行く。見た目は普通の乗用車のように見える。出て行くなら危険はないはずだ。じっと、その様子を見守る。なんと、深夜に車は六台もいた。それがいっせいに出て行ったのだ。六台目が出て行くと同時に、リアウインドウに水滴があたる。雨だ。水滴はすぐに増え、最初は聞こえなかった水滴のあたる音も聞こえて来る。驚くほどの雨になったのだ。車には傘も用意してある。しかし、降りていいような雨ではない。何もずぶ濡れになってまで観に行くものではない。諦めて筆者も駐車場を出た。

 駐車場を出ると雨が止んだ。まだ、いくらも走っていない。引き返すのは容易い。しかし、引き返す勇気はなかった。